ある晩、彼女は言った。


「わたしは大阪に行くから、あんたは北海道へ行ってほしいの」


唐突な話ではあった。

くわしい理由も告げられず、ただ、一緒に暮らせなくなった、その一言でおおよその事態を把握するしかなかった。

尋ねたところで納得できるようにも思えなかったから、敢えて訊かなかったんだ。

生きていくのに一番欠かせない物、それはお金。

そんなこと知らないのは、赤ん坊と生まれながらの金持ちだけだろう。あたしが知らないはずがない。

もともと会話なんてほとんどないあたし達は、出発の日まで互いの先のことについて話すこともなかった。

その支持に黙って従うことが、あたしの人生だと思ったし。今までもずっとそうだったから。


北海道には、あたしの曾お婆ちゃんが住んでいるらしい。今年で86歳になるというその人も、相当迷惑な話だろう。

だって顔も見たこともない孫の、そのまた娘が転がりこんでくるなんて。この上なく気の毒な話だ。