「ゼル兄……手が……手が……!!」
ゼルは緩慢な仕草で自身に目を落とす。
土埃を呑み込んで行く夥しい血溜りに、散らばる肉片と粉々に砕けた骨。
代わりに右腕の肘から下が――何もない。
「うあぁぁぁぁっ!」
ロウウェルが劈くような悲鳴を上げた。
「ゼル兄っ! ゼル兄っ!! 嫌だ! 嫌だっ!!」
見開かれた目から涙を流し、しきりに首を横に振るロウウェルを見るが、視界がどうも定まらない。
痛みは感じない。目の前の景色がゆらゆらと揺れるだけ。
「嫌だぁぁぁっ!!」
泣き喚くロウウェルをしばらくぼうっと見ていて、ふと笑みを零す。
「……なんだ」
出た声は自身が思うよりもずっと小さなものだった。
「泣いたり喚いたり……出来るじゃねェか……」
ロウウェルが息を呑む気配が伝わる。
「バカ、ゼル兄……、今そんなこと……! あ、だ、誰か呼ばないと……!」
立ち上がろうとしたロウウェルは、すぐにまた顔をくしゃりと歪めた。
「た、立てな……! 腰、が……!」
手を伸ばしてやりたい。だが片手は体重を支えるのが精一杯で――伸ばせる腕が無い。
腕が無い実感を何処かに放り投げたまま、ゼルは今ロウウェルを慰めてやれないことを悔やむ。
「落ち着けって。……こンくらいで、死にゃしねェし」
幸い傷口からの出血量は知れている。死なないと、何故かそう確信していた。
だが眠い。猛烈な眠気が襲う。瞼が重く、自然と目を閉じる。
「早く……早く手を、くっつけなきゃ……! だって、ゼル兄、剣士になるって……世界一の剣士になるって……!」
涙声で必死に叫ぶロウウェルに、目を閉じたまま唇に弧を描いた。
「なるさ。なるから。だから、そんな泣くんじゃねェよ。極端だな、ロウは……」
口の中で呟いた声はロウウェルに届いたのかどうか。
「ぜってェ、なるから」
――オマエが負い目を感じなくて済むように。
「なって、みせっから」
呪文のように繰り返し、ゼルは意識を手放した。
そして彼は、不毛の大地から大樹を育む夢を見る。
人生を大きく変えたあの日に残るのはロウウェルの泣き声と、散らばった腕。
そして決して朽ちることない男の約束、夢の種。
ゼルは緩慢な仕草で自身に目を落とす。
土埃を呑み込んで行く夥しい血溜りに、散らばる肉片と粉々に砕けた骨。
代わりに右腕の肘から下が――何もない。
「うあぁぁぁぁっ!」
ロウウェルが劈くような悲鳴を上げた。
「ゼル兄っ! ゼル兄っ!! 嫌だ! 嫌だっ!!」
見開かれた目から涙を流し、しきりに首を横に振るロウウェルを見るが、視界がどうも定まらない。
痛みは感じない。目の前の景色がゆらゆらと揺れるだけ。
「嫌だぁぁぁっ!!」
泣き喚くロウウェルをしばらくぼうっと見ていて、ふと笑みを零す。
「……なんだ」
出た声は自身が思うよりもずっと小さなものだった。
「泣いたり喚いたり……出来るじゃねェか……」
ロウウェルが息を呑む気配が伝わる。
「バカ、ゼル兄……、今そんなこと……! あ、だ、誰か呼ばないと……!」
立ち上がろうとしたロウウェルは、すぐにまた顔をくしゃりと歪めた。
「た、立てな……! 腰、が……!」
手を伸ばしてやりたい。だが片手は体重を支えるのが精一杯で――伸ばせる腕が無い。
腕が無い実感を何処かに放り投げたまま、ゼルは今ロウウェルを慰めてやれないことを悔やむ。
「落ち着けって。……こンくらいで、死にゃしねェし」
幸い傷口からの出血量は知れている。死なないと、何故かそう確信していた。
だが眠い。猛烈な眠気が襲う。瞼が重く、自然と目を閉じる。
「早く……早く手を、くっつけなきゃ……! だって、ゼル兄、剣士になるって……世界一の剣士になるって……!」
涙声で必死に叫ぶロウウェルに、目を閉じたまま唇に弧を描いた。
「なるさ。なるから。だから、そんな泣くんじゃねェよ。極端だな、ロウは……」
口の中で呟いた声はロウウェルに届いたのかどうか。
「ぜってェ、なるから」
――オマエが負い目を感じなくて済むように。
「なって、みせっから」
呪文のように繰り返し、ゼルは意識を手放した。
そして彼は、不毛の大地から大樹を育む夢を見る。
人生を大きく変えたあの日に残るのはロウウェルの泣き声と、散らばった腕。
そして決して朽ちることない男の約束、夢の種。

