闇夜の略奪者 The Best BondS-1

 ゆっくりと振り向いた顔はロウウェルのもので。ゼルの中に安堵が広がる。
 それは走った後の水よりも心地よく染み渡っていく。
 心配すんだろ! 怒鳴りつけようとしたゼルの言葉はロウウェルの笑顔によって永遠に出口を失った。
 「………何、見てんだ?」
 頭をくしゃりと乱して問いかけた。
 「赤いお日様を見てたの。……心配したよね、ごめんなさい」
 困ったような笑顔で謝られては怒るに怒れず、ゼルは沈む夕日へと視線を向けた。
 「ココ、僕の特等席。時々、来るの」
 「こんなトコまで……一人でか?」
 「うん」
 その時に感じた感情は驚愕か、寂しさか。
 ガキだガキだと思っていたのに、いつの間にか村の外れまで一人で来れるようになっていたのだ。
 「……アル兄やセア姉……まだ怒ってた?」
 「……今は心配してんよ」
 年齢が随分離れているせいか、ロウウェルはゼルを父親のように慕っている。
 そしてゼルもまた、ロウウェルを他の弟妹の誰よりも気にかけていた。
 「ロウ、一人でこんなトコまで来んのは危ねェんだぞ? この柵越えれば……」
 「地雷がいっぱいあるんでしょ? 知ってるよ。其処の看板に立ち入り禁止って書いてるもん」
 「なんだ、知ってたンかよ」
 「うん。僕、他にもいっぱい知ってるよ。アル兄が僕を守ってくれてるんだってことも、テア姉とセア姉が僕に負けないようにって寝る前に本を読んでることも、ディル兄が本心であんなこと言ったわけじゃないってことも、ミュー姉がいつもゆっくり歩いてくれてることも」
 ゼルは目を瞠る。六歳とは思えない洞察力と観察力だ。
 「でも僕は何も出来ないんだ。いつもオドオドしてて……言いたいことも言えなくて……力も弱いし……。本当に居なくなっちゃった方がいいのかな、って……」
 「居なくなった方がいいって言われたのか?」
 「あ。うん。ディル兄を怒らせちゃって……。なんで僕、あんなこと言わせちゃったんだろ……。ディル兄を怒らないでね」
 何処までも心の優しい少年だ。