闇夜の略奪者 The Best BondS-1

 犯罪が増えれば、それに対抗するものが現れるのは世の理だ。虐げられた社会が永遠に続くことがないように。その理はこの街にも当てはまった。
 主に見張りやボディーガードなどの仕事を請け負う人達、いわゆる「なんでも屋」が出没したのである。
 組織単位で動いているわけではない彼らの中には金と条件さえ合えば誘拐だろうが殺人だろうが何だって請け負う者達も居ると聞く。
 だが、トルーアに居る闇屋は皆、大人しいものだった。ある者がトルーアの闇屋を牛耳っているからだ。その者とは闇屋創設にして世界最高峰の闇屋【ライフ・ヘルパー】――即ち深紅を身に纏うあの男だったのだ。
 「けど、まっさか、あんな奴だとは……」
 人格にも驚かされたが、それよりもあの若さ。おそらく二十を少し過ぎたあたりだろう。そんな人物が闇屋の頂点だと言われても疑うのは当たり前だ。
 確かによく引き締まった体をしていたがそれなら今この街に溢れている、ならず者達の方がよっぽど屈強そうな体躯をしている。だが、彼が闇屋であれば全ての説明がつくのも事実。
 どんな表情の時でも笑わない深紅の瞳に感じた畏れ。あのとき本能はエナに彼が只者ではないことを告げていた。そして指を突きつけたときの緩慢な反応。あれはずば抜けた動体視力が動きを視切っていたからだ。エナに害意が無いことを知っていて動かなかったのだ。
 「っとに……あたしの馬鹿っ!」
 あの男を雇うことが出来れば百人力どころの話ではない。逃がした魚は限りなく大きかったというわけだ。
 もっと上手く利用する手があった筈だというのに、情報を引き出された後に感情的にさせられ、挙句、まんまと店を出てしまった。
 悔しいのは、それらが全てあの男の計算上の事だと理解出来てしまう故。
 逆上したキーワードは彼にとっても予想外だっただろうが、大筋では彼の書いたシナリオどおりだったに違いない。つまり、軽くあしらわれたのだ。
 海賊ランクが昇格したところで、世界一と謳われる闇屋を営む彼にとっては大した問題では無い筈なのだから。