闇夜の略奪者 The Best BondS-1

 余りにもあっけらかんとエナが割り切ったものだから、逆にジストやゼルが気遣う声になる。エナはその二人を順に見て、きょとんとした表情で瞬きを繰り返した。
 「誰が、諦めるなんて言った? あたし、闇の王、探すよ。あたしが盗むの我慢したってのに横取りなんて許せないし! そうと知ってれば、あたしだって片っ端から盗んでたのにっ!」
 エナがその場で地団太を踏むと、うとうとしていたラファエルが不満気に鼻を鳴らしてエナの膝から飛び降りた。
 どの道強盗に入られるのならば闇の王で良かったと屋敷の主が思ったかどうかは定かではないが、男は小さく咳払いをして額に浮かぶ汗を拭いた。
 「だけど、それはトロルに行った後でいいから、今は考えない。ことにする」
 鳩笛だけを狙ったという話だから、自身と暗殺者の目的は同じである可能性が高い。ならば何(イズ)れ会う機会もあろう。焦っても仕方が無い。
 「エナ。別にオマエまでトロルに来なくてもいンだぜ? 無理すンなよ」
 労わるようなゼルの声音にエナは首を横に振った。
 「あたしの中の優先順位。あたしはそれに従ってるだけ。無理してるんじゃ、ないよ」
 トロルに戻ったときのゼルが受ける心の痛みを見届けると決めたのだ。首を突っ込んでしまった以上、最後まで見届ける義務が自分にはある。
 過ぎ去った過去を悔やむような時間は無いし、未来ばかりに想いを馳せられるほど子どもでもいられない。大人というにもまだまだ未熟であるからこそ、足元を掬われないように今という瞬間を踏みしめる。
 それがエナに出来る精一杯であり、それこそがエナの選択した道。選んだ道が回り道になることなど決して無いのだと信じて歩んでいくだけだ。それが生きるということで。誰のせいにもせず心のままに生きること。それが、【活きる】ということ。
 「今すべきことは追うことじゃない。さ、行こう。きっと、シャードが待ってる」
 銀の器に入ったお菓子をいくつか手に掴んで、エナは立ち上がった。
 未だ気遣わしげな視線を向けるゼルも口元に笑みを刷くジストも、エナに倣って席を立つ。