眼下にひろがる広大な緑の森の全貌を見極めるのは難しかった。しかし、それもそのはずである。

 ウィルランドの北端に位置するこの森は、人の住まうこの世とは異なる魔界と呼ばれる世界の出入り口を封じていた。そのために空間そのものがゆがみ、その全貌も刻々と移り変わっていくのだった。

 もちろん、ふつうの旅人が通れる森ではない。

 ウィルランド人のこれ以上の北上を阻むゆえに、ここは『果ての森』と呼ばれていた。

 その森を見下ろしたメディアの脳裏を、二年ほど前から行方をくらましたメディア自身の母親のことがふとかすめた。最後に見かけられたのは、この森の近くだったという。メディアと同じ魔法使いである彼女の母ローデアは、けっしてよい母親とは言えなかった。

 子供のことは、魔法院に預けたきりほとんど構わず、自分の好き勝手ばかりしていた。実は行方をくらますことなど日常茶飯事で、メディアはいちいち心配などしたことはなかったが、今度ばかりは長すぎた。

 いったい、この森で何をしていたのだろうか。いくら何でも、この空間がゆがんだ森に入り込んで迷子になるほど物好きじゃない、とまでは、言い切れないところがつらいところである。

「ああっ、もうっ! やめやめ!」

 どうせ、ある日ひょこりと帰ってくるのに違いないから、気にかけるだけ無駄なのだ。それより今はロランツ王子の魂を取り返すことだ。