『歌か…。歌なんか大ッ嫌いだけど』

初めて会った相手に、これだけ言えるのは、“よっぽど歌が嫌いなんだな”って、思ってた。

『………歌が嫌い。ただ、それだけの理由だ』

今思えば、ここに違和感を感じた。

歌が嫌いなだけで、あれだけ怒れない。嫌いにしては、“異常”過ぎる。

本当は、あの時“憎い”って言えばよかったのに、橘 奏は“言わなかった”。

そして、橘 奏が何故、自分の名前を嫌っていたのか…。橘 奏は、憎いんだ。歌も音楽も自分の名前さえも…。

あたしに会う前からずーーっと憎んでたんだ。そして、あたしの名前さえも…。

だから、橘 奏はあたしの名前を呼ばない。あたし自身が憎いモノばかりを持った存在だから…。

これで、全部繋がった。

バカだなぁ…。なんで、今頃になって気づいたんだろ…。

それを思うと、悲しくて胸が締め付けられるように息苦しかった。

もうすぐ、夏がやってくる----。