「おばあちゃん、ご飯が終わったら弾くよ。でも間違えても笑わないでよ。」
見れば父の目が嬉しそうに笑っている。
大輔は当然、と言うような顔をして口いっぱいに飯を頬張っている。
夕食の団欒も終り、いつものように父が広い畳敷きのリビングで横になりながらテレビを見ていると広志が顔を出した。
その日も事務所で仕事を終えた孝太と顔は合わせているのだが…
仕事以外の事はこうして家の方へ来て話す。
朝子はとっくに自分の部屋へ戻っているし、お手伝いの則子も仕事が終り自室に戻った頃だった。
家が広いから、はずれにある真理子の部屋からはかなり離れ、造りがしっかりとしているから、話し声が真理子に聞かれる気遣いも無い。
「何か分ったのか。」
「大抵のことは分りました。」
その時、ちょうど風呂から上がった大輔は,一緒に話を聞く事にした。
孝輔は部屋に籠っているが…
真理子の話の後、大輔は孝輔の事を広志に相談したかった。
孝輔の事は自分がと思ったが、ヘロインと言うことになれば、時々は刑事ドラマの中で、中毒患者の様子が出ているから何となく分るが,実態は皆目分らない。
が、誰でも良いと言うわけにはいかない。
この広志なら、兄の和也より安心して相談できる。
現に姉の事だってこうして調べてくれた。
「そうか、そんな生活を… 女だから,もっとしっかりつかまえていなくてはならなかったが… 今さら何を言っても取り返しは付かないな。」
父は後悔の心をつぶやき、自分の息子のような広志を見ている。
「だけどどうしても赤ちゃんの親が分りません。豊田で同棲していた相手は分かりましたが、期間が合いません。多分その前の誰かのようですが…
ひょっとしたら本人にも分からないかも知れません。」
広志の言葉は、真理子が不特定多数の男と性交をした可能性もあり、
子供の父親はその中の誰なのか、本人さえ分からないのかも知れないというものだった。

