真理子は無言のまま駅へと向かった。


後には京子が、やはり無言でついている。



「あの親は洋介がいくら頑張ろうとしても認めようとはしなかったのだね。
洋介が可哀そう… でも、きっと私だって似たようなものだと思う。」




電車が発車すると、京子が自分のことに置き換えて、そして真理子の気持を代弁するような言葉を出した。


京子も高校生の時に何度も補導されて、中退した経験者だった。


今も一応は家にいるが… それ以来家族とまともに会話をした事が無い。


だから行き場の無い真理子が、毎日のように自分の所に来てくれるという事は嬉しさ以外の何ものでもない。


が、真理子は余程ショックだったのか一言も話さず… 夜中になて二人は別れた。






それから数日、真理子は部屋に籠りっきりだった。


見かねて春子が食事を運んだが… 父親の孝太に相談すれば真理子が叱られる、挙句には千草のことも口に上る、と悩んでいた。


考えてみれば,自分たちが育てた娘、初めに結婚した小夜子にしろ、赤ん坊の和也のためを大義名分にして、妹の千草を迎えてくれた孝太に、その二人ともが不祥事を起こして孝太を苦しめた。


それなのにこうして、自分のような嫁の母をいつまでも家族として扱ってくれている。


そして真理子は… 孝太が命より大切に思っていた和也を、祖母の目から見ても兄として見た事はなかった。


いつも千草と同じような目をして成長の遅い和也を見下していた。

そんな可愛げの無い真理子だが… 自分にとっては孫娘に違いない。


とにかく春子は,お手伝いの北見則子に真理子のことは口止めして、真理子が何を考えているのか全く分からないまま、自分ひとりで何とかしようと考えた。


幼い頃から、真理子が千草のコピーだった事に苦々しくも感じていた春子だったが、それでも今は,祖母として懸命に守ろうとしていたのだ。


この事は孝太の祖母・朝子にも話せなかった。