ツインの絆

しかし、野崎組として評判が出てくると、千草の性格が少しずつ変わって来た。


町内では一番大きな家に住んでいる奥様としてもてはやされ、上流志向の意識だけが先走りし、実際の生活に飽き足らなくなって来たようだった。



自分になつかない長男の和也… 和也は辛うじて孝太の愛嬌のある狸目は似ているが、他は源次郎の血で繋がっているような道子に似ていた。色白の人形顔。



発育が遅く中学までは小学生でも通るような顔かたち。



ただ感情がこもった時に見せる目つきは、黒目部分が多い分、その子供っぽさから一変して鋭く冷たいものになる。



千草は成長が遅く、いつまでも赤ちゃんっぽい和也を母の春子に任せ、自分は頭の回転が良く、二歳下と言うのに和也より大きく見える真理子を愛し、大輔、孝輔を後に続かせていた。



一緒にピアノを習わせていたのもその表れだ。



そして二年前、大輔たちが中学三年の夏休み、千草は吉村則道と言う真理子のピアノ講師といい仲になり、ドライブ中に、飛び出して来た猫をよけようと、ハンドルを切り損ねて電柱に激突してしまった。



運転していた吉村は軽傷だったが助手席にいた千草は即死した。



しばらくは、仕事一筋の夫に飽き足らず、若い男と浮気三昧の恥知らずな女、と言うな聞きたくない醜聞に家族は悩まされて来た。



そして後を追うように、祖父の水木安雄も千草の不祥事を詫びながらこの世を去った。



二年前は野崎にとって最悪の状態だった。



その時… いつもは和也しか見ていないような道子おばが泣いていた二人に話しかけてきた。


初めての事だったからそれ自体に驚いたものだったが… 


しかしその時は、母の恥さらしな死に方に困惑して、悲しかっただけで終わってしまった。


中学三年生と言う思春期の少年にとって自分の母親が若い男とドライブして事故死とは… 

とても受け入れられる話では無かった。