「野崎、本当に何かあったのではないか。体調が悪いのか。」
練習が終り、同じ方向へ帰る山田と自転車を並べていると、いきなり山田が自転車を止めて、大輔を心配する言葉をかけた。
その時後方から、やはり同じ剣道部の木村道哉が自転車でやって来た。
家が同じ方向とは言い難いが… どうやら木村もここ数日の大輔を案じているらしい。
二人に追いつくと同じように自転車を止めた。
「野崎、心配事でもあるのか。ひょっとしたらバイオリンの弟のことか。」
木村は孝輔の事を何か知っているような口ぶりで大輔に話しかけた。
木村道哉… 大輔とは小学校から同じで、中学時代に家を新築して引っ越した。
が、同じ学区内だったから転校もせず、剣道も同じ頃に始めた幼なじみのような存在で、野崎の家のこともかなり詳しく知っている。
活発な大輔はどこでも人気者だが、性格がおとなしく、バイオリンをいつも抱えているイメージが強い孝輔は特異な存在として見られていた。
孝輔の事を大輔の友達が口にする時は大抵、双子の弟、とか、バイオリンの弟、という呼び方をしていた。
そして、誰もがスポーツマンの大輔が、いつも弟の孝輔を見守っていると言う事を知っていた。
長男は和也と言う名前で、今は外国にいると言うことは知っているが、かなり変っているらしいと言う事しか知らず、あまり意識に無い。
ほとんどの友人の間では、大輔で繋がるのは双子の弟しか浮かんで来ない。

