そうなのだ。
ここ数日、大輔は孝輔の様子が気がかりで、何も落ち着いて出来なかったのだ。
家で話そうとすれば孝輔はいやな顔をして、自分を避けるように部屋に入ってしまう。
こんな事は今まで無かった。
いつも二人で話し合って行動していた。
たとえ高校は違っても心は繋がっている。
それが双子として生まれた自分たちの強みだ。
そう思って来たのに、近頃の孝輔は自分を避けるような行動をしている。
それに… 今朝、忘れ物をしたことに気づき家に戻った折、良くないこととは知っているが孝輔の部屋をのぞいた。
すると、あれほど大事にしていたバイオリンが、ベッドの上に無造作に置かれていた。
家を出る時にはバイオリンのケースを抱えていたと言うのに… 中身が無いと言うことは重さが違うのだから気付かないわけは無い。
最近の自分に対する態度に加えて、それも、大輔にとっては、好きな剣道にさえ没頭出来ないほど大きな不安材料だ。
今もわけが分からないが、片山と向き合って竹刀を構えた時、いきなり闘争心は消え、無気力な気分に襲われてしまった。
先輩の原口に言われるまでも無く、自分も片山に小手を取られるなど想定外の結果だ。
あの時、確かに一瞬フワっとした気分になり、頭が真っ白になったようだった。
その間に相手から小手を取られたのだが… こんな説明のつかない状態になるとは… 孝輔に何か起こっているのかも知れない。
考えられる事はそれしか無いが、孝輔と話す時間が持てない。
いや、今夜こそは部屋へ乗り込んででも…

