ツインの絆


時計の針が四時を示す頃、アキはゆっくりと体を起こし、
横たわっている孝輔を見て満足気な笑みを浮かべている。


孝輔はアキに合わせるように、物憂い気分のまま衣服に手を伸ばした。


確かに今日の自分はいつもよりエネルギッシュだった。

気分も特別だった。

よく分らないが… あのキャンデーが自分に力を与えてくれたようだ。


あれを口にしてから気分が良くなった。

甘さが必要だったのか。
 
とにかくこのアキは、自分が今まで知らなかった幸せな世界を見せてくれる。


自分の事を真剣に考えてくれているみたいだ。


バイオリンだけの味気ない孤独な世界から、自分を引っ張り上げてくれた天使、
エンジェルだ。


孝輔は素直にそんな心でアキを見ていた。







     
「参った。」


その頃、大輔は剣道部の仲間と練習試合をしていた。


一・二年生は午後からの授業が自習となり、剣道部員は道場に集合して練習に励んでいたのだ。



「野崎、お前、このところおかしいぞ。何かあったのか。
もうすぐ地区大会が始めまると言うのに、今までの闘志はどうした。」




剣道部顧問がいない時は、剣道部の先輩に当たる大学生・原口幹夫が顔を出して、地区大会に出場する二年生を指導してくれている。


しかし、どうもこの数日、地区大会を勝ち抜く優良株の野崎大輔の調子がいつもと違う。


今も同じ二年生とは言え、絶対に負けるような相手ではない片山一郎に、見事に小手を取られて負けている。



「すみません。」




大輔は一言そう言い、黙って落とされた竹刀を拾い、相手に礼をして後ろに引き下がった。