そして車は、一度行ったことのある市民病院近くのラブホテルへと入った。
が、その時になって孝輔は、手持ちの金が乏しいのに気付いた。
確か財布の中には小銭が… 千円も入っていなかった。
勿論アキと会う事に金がかかるのは分っていた。
先週だけの数日間で、箪笥貯金として貯めていた現金は見事に無くなり、
祖母から渡された今月の小遣いなど一日で消えていた。
それで、子供の頃から通帳を作り貯めていた,
近くの信用金庫のキャッシュカードを持って来たのだが、
服を着替えた時に… ボタンのある制服の内ポケットに入れたままだった。
その事を気後れしながらアキに告げたが、アキは笑いながら孝輔を部屋へと誘った。
アキは部屋に入るとすぐにバッグから、キャンデーのようなものが入ったビンを取り出し、一粒を孝輔に渡した。
孝輔は戸惑いながらそれを受け取り、黙ってアキの顔を見ていると、
アキは自分もそれを口に入れた。
「キャンデーだ。」
アキに勧められるまま口にした孝輔は、それが見かけと同じキャンデーだと分り、
思わず口に出してしまった。
無意識に、何か警戒した心があったようだ。
「当たり前でしょ。何だと思ったの。」
「・・・」
孝輔は慌ててうつむいた。
しかし、ビンをバッグに入れているアキの顔に、薄ら笑いのようなものが浮かんでいる。
「ねっ、今日は特に楽しい気分だったでしょ。
孝ちゃんも特別に元気だったわ。サ・イ・コ・ウ。」

