「ねえ、これを飲んでみなよ。気分が軽くなり、もっと楽しくなるから。」




水曜日、孝輔が学校へ着いた頃アキから携帯に、すぐ会いたい、と言う連絡が入った。


一時間以上掛けて登校した学校だったが、
孝輔は戸惑いながらも、すぐに言い訳を作って早退した。


自分の中ではバイオリンは止めていた孝輔だが、
家族への手前、鞄の他にバイオリンケースも抱えていた。


そしてそこにはバイオリンの代わりに、いつでも着替え出来るように私服を入れていた。


それが孝輔なりに考え出した最善の策だった。



孝輔は、一時間半後に東岡崎駅前で、と言う約束をして、急いで電車に乗り、
駅のトイレで学生服を脱ぎ、鞄共々コインロッカーに隠した。


アキとは日曜日に会って以来三日ぶりだった。


こんな事をしたのも生れて初めての事、緊張のあまり手先が震えていた。


日曜日までは毎日会っていたが、月曜日に登校するようになり、月、火と連絡が無く、
見捨てられたような気持になっていた孝輔だったから、人目は気になったが、
興奮した気持のままアキの来るのを待っていた。


すると、見覚えのある赤いスポーツカーが東からやって来て、
相変わらず派手な服装を身にまとっているアキが、大きなサングラスをはずして、
早く乗るように促した。