そしてその日も、良い気分で夕食前には家の前に戻って来た。



「孝輔、どこへ行っていたのだ。」



玄関を入ろうとした孝輔に声を掛けたのは、怒ったような顔をしている大輔だった。


最近は夕食が始まる頃に帰宅して、父の真似なのか、すぐに風呂に飛び込み、汗を浮かべながらいい顔をして食卓に付く。


それが大輔だったが… 今日はどうしたのだ、と言うような顔をして孝輔は大輔を見た。


複雑な心境だが、孝輔も大輔が剣道で輝いていることは(自分を卑下する気持を抱く原因の一つでもあるのだが)自分の事のように嬉しく自慢だった。



「大輔、今日は早いね。」


「話がしたくてクラブを休んだ。ずっと待っていたのにどこへ行っていたのだ。孝輔、この頃おかしいぞ。何かあったのか。腕の調子が悪いのか。
長谷川さんはその内に治ると言っていた。
いくら双子でも孝輔の気持まで分らないけど、最近の孝輔は変わった。まだ誰も気付いていないようだけど… 俺にはわかる。何かあるのなら俺に聞かせてくれ。二人で解決しよう。」



いくら双子でも大輔に孝輔の全てが分るはずは無い。


ただ、孝輔の態度からその変化には気付いたのだろう。


それに、学校を休んでいると言うのに今までどこへ行っていたのだ、と言う不信感は確かだ。



「話がしたいって、わざわざそんな事でクラブを休む事など無いじゃあないか。もうすぐ地区大会が始まるのだろ。
僕はただ気晴らしに散歩していただけだから。来週からは学校へ行くし… 余計なことに気を回さないでくれよ。
大輔は僕の保護者ではない。ただ同じ時刻に生まれた双子。とにかく僕のことに気を回さないで欲しいよ。僕はもう完全な大人なのだから… 」




と、孝輔は思わず、僕は女を知っている男、
大輔は竹刀を振っていれば楽しい子供、と言う優越感を秘めた気持ちの言葉を出し、
慌てて、身を翻して家に入り、自分の部屋に駆け込んだ。