一人になるとすぐにアキが目の前に現われ…
慌てて追い払ってもすぐに現われ…
昨日の今日でこんな自分に変わってしまうとは…
孝輔は自分自身が信じられず、不安に襲われもした。
それでもアキに会いたかった。
まるで熱病にかかったように、アキが頭から離れなかった。
孝輔の部屋は、南向きに三つ並んだ部屋の西の端、真ん中が大輔で東の端は和也だ。
今は和也の代わりに父の孝太がそのベッドを使っている。
和也が戻った時は、二人して、中央に位置している元来夫婦の部屋として使っていた二間続きの和室に布団を並べている。
長男の和也は普段家にいないからか、二十歳になったと言うのに、いつまでも父に甘えるところがあり、父も和也との時間が嬉しそうだ。
しかし大輔と孝輔は、幼い頃こそ父に甘えていたが、小学校に入って以来母親の存在が大きかった。
それなりに成長しているからか、
とにかくこうして一緒にいられる時間があっても、
食事中に何がしかの会話をするぐらいでその場を離れている。
正確に言えば… 大輔は剣道を話題に父との会話も弾ませることが出来るが、
とび職人の父はクラシック音楽に興味は無い。
ただ、子供がバイオリンの発表会に出る、と聞けば親として、
また祖母たちを乗せてくる運転手も兼ねて、会場に足を運んでくれる。
しかし、舞台上の態度については感想が出ても、
曲そのものの感想は聞いたことが無い。
とにかく褒めてはくれるが…