道子と言うのは源次郎の先妻の娘で、とびの父親をこよなく愛し、まるで、とびにはなれないが【鳶の化身】のように強くてユニークな心の持ち主だ。


自分はサラリーマンと結婚して名古屋に住んでいたのだが、その夫も早くに亡くし、二十年前に一人娘の亜矢可を弁護士として独立させ、実業家になっていた兄の哲也をうまく動かして、孝太に源次郎の面影を見た、と言って野崎組再興に乗り出した。



孝太の祖母・朝子は源次郎の後妻で、その再婚に猛反対をした哲也は怒って家を出て行ったのだが、道子は朝子ともうまくやって来た。


朝子には、孝太の母・裕子の他に伸也と恵子という子供がいて、二人とも近くに住んでいるが、だらしの無い裕子を嫌い、あまり良い関係ではなかった。



その後、道子の道楽のような野崎組作りが始まり… 気がついてみれば国道一号線上に事務所と見習いたちの住居が、町の中央よりには頭の家に相応しく、と言って大きな家が建てられていた。


土地を買い戻すと言っても半端な額では無かったはずだが… ちょうどその頃、孝太たちの住んでいた安城の家は地主から追いたてを食っていた。


非常識な事だとは思いながら、孝太は道子の好意を受け、それ以来人並み以上にとびの仕事に精進している。
それが今の野崎組だ。



道子は和也のために、孝太が小夜子の妹・千草と再婚する事は賛成したが、その時に千草の両親も同居するように、と言い出した。


我儘な裕子がいては千草も大変だという配慮だった。

ちょうどその頃、印刷業をして豊田に住んでいたはずの水木夫妻は破産して、名古屋の市営住宅に暮らしていた。


だから反対する理由も無く、恥を忍んで、かわいい孫の和也と暮らせるならと言うことで、世には珍しい大家族として大きな家に暮らすこととなった。


しかし裕子は、岡崎に移って間もなく二度目の発作が起きてあっけなく死んでしまった。


そして千草は真理子、大輔、孝輔と子供を産み… 表面的には人も羨む暮らしだった。