正直なところ,アキの唇には忘れられない魅力と誘惑を感じていた。
昨夜はいろいろな思いが悶々と沸き起こっていたが、今はアキのキスを微かに期待しているところがある。
しかしその先のことは考えていなかった。
車の中でキスをする… あの柔らかい気持のいい唇が恋しい気がしていた。
いきなりラブホテルとは,孝輔にとっては想定外の言葉だった。
まず思ったのが母の醜聞、それから誰かに見られたらどうしよう、と言うことだった。
「河村さんもまだ高校生だからそんなところに入って見つかれば大変なのでしょ。僕も… 困ります。入った事も無いし… 」
ラブホテルに入ったことも無ければ、まだ童貞の孝輔だ。
第一異性とこうして話をした事も無い。
慣れた態度で,アキは受付で金を払い、鍵を受け取り、躊躇している孝輔の腕を取り… 廊下にあった自動販売機でビールを買い… 二人は20分後には,駅から北東に位置するラブホテルの一室にいた。
「やっぱり、僕、帰ります。」
緊張して震えが収まらない孝輔は、リラックスした様子でソファーに座り、買って来たものをテーブルに広げているアキに告げ,ドアを開けようとした。
「待ちな。ここまで来て帰ると言う事は私に恥をかかす事だよ。分っているの。」
アキは右足をドアに高く上げて孝輔の行く手をさえぎった。
「でも… 僕は… 」
「分っているよ。初めてだから怖いのだろ。大丈夫、丁寧に教えてあげる。」
「えっ・・・」
孝輔にもここが何をする所かぐらいは知っている。
しかし… 自分は絶対にこんな所には来ない、と二年前から思っていた。

