聞いている孝太と大輔は、孝輔の気持ちが何となく分かってきた。
要領の得ない話し方だが、
孝輔が自分の事を風評で知られるのではなく、
自分の口から話したい、と思っているのが伝わってくる。
たとえ単なる友達だとしても、
孝輔としての精一杯の礼儀のつもりなのだ。
「はい。分かりました。
それでは明日の一時に伺います。それで良いですか。」
大輔がどのように孝輔のことを話したかは知らないが、
坂上春香は爽やかにそう言って電話を切った。
そして孝輔は、父や大輔に何も言わずに二階へ上がった。
はっきり言って、坂上春香の顔さえ覚えていないのだが…
とにかく自分の事を話して… それでも構わないのなら、
広志に言って、一緒に乗せてもらう。
もう女とは関わらない、と決めているが、
今の声はどこと無く落ち着きを感じた。
そして翌日の一時、
春香は判で押したようにブザーを押してきた。
孝輔は自分が言い出したことだが落ち着かなかった。
いざとなれば、どのように話そうか…
臆病風に吹き飛ばされそうだ。
家でと言ったものの、家の中には曾祖母や祖母、
お手伝いの則子までいる。
それで孝輔は広志に相談して、
広志の税理士事務所を貸してもらった。
狭いが、一応机やキャビネットの他に小さい応接セットも置かれている。
落ち着かないが… そこなら話を聞かれる心配は無い。
広志は初めに自己紹介をしながら紅茶とケーキを運んでくれ、
そのまま野崎の事務所の方へ戻った。
そこで孝輔は、話辛かったが、
自分の身に起こったすべての事を話した。

