「孝輔、大輔の回復祝いだ、バイオリンを弾いてくれ。」
「なんだねえ、孝太は。
今、私が孝輔に頼もうと思っていたのに。」
父の声が終わるか否や、ゆっくりと箸を置いた祖母の朝子が、
孫の孝太をすねるような眼差しで見つめ、
ひ孫の孝輔を優しい笑顔で見ている。
「なんだ、思いは同じか。」
孝太はそう言って満足そうな笑みを孝輔に送った。
「またあれ。」
孝輔は言われるままに二階からバイオリンを持って来た。
あれ以来バイオリンに触れていない孝輔だが、
観客はクラシックには無関心の家族。
音だけ出していれば満足してくれるだろう、
と孝輔は安易に考え、
サンサーンスの【聖母の宝石を】を口に出した。
祖母たちは、和也が大好きなその曲を楽しみにしている、
と言う顔をしているが、父は異なる事を口にした。
「いや、俺はもっと元気の出る曲が良いな。
大輔が優勝するように…
ほら、和也たちの十八番があるだろ。
あいつらが暴れながら歌っているやつだ。あれを弾いてくれ。」
それは少年忍者が活躍するアニメの主題歌、
それを事あるごとに、
成人になっている三人が適当な替え歌まで作って披露している。
正月明けに行った職人の結婚式、
家族のいない職人は、節約もあってか、
時々、野崎の座敷で式を挙げる。
初めから道子の計らいで、
玄関横の座敷は10畳間が2間続きで出来ている。
普段、リビングとして1部屋は使っているが…
その時も、たまたま戻っていた和也、東京にいた悟を呼び出し、
広志とあきらにもきちんと役を決め、
歌って踊りながら、
窓から飛び出して【見ようによっては】暴れていた。
四歳になるあきらの子供・リックもはしゃいでいた。
決して忘れられない結婚式になった事だろう。

