「絵のこともね、和ちゃんはいつまでも幼児が描くような絵、
悟兄ちゃんは忠実に描こうとして,いつの間にかギブアップ。
それで二人が僕の絵を見て、
照れくさくて顔が焼き消えてしまうほど褒めてくれた。
褒められたことなど無かったから嬉しくて、
僕は仕舞いに泣いていたよ。
二人に、芸術家のように感性が豊かなのだから、
いつもスケッチブックを持っているように、
描いた絵は必ず見せる事、を約束させられて…
小学校からずっと、毎年
誕生日にスケッチブックをプレゼントしてくれる。」
と言いながら、広志は目の前のスケッチブックを愛おしそうに見ている。
孝輔は三人の絆を感じた。
大輔と僕… 特別なものがあるが、広志さんたちも…
なんだか、前にいる広志さんがとてもまぶしい。
「総務一般や税理士の看板は挙げているけど、
絵に没頭している時はアーティスト気分だよ。
その頃、道子おばさんからも… 5本の指を出され、
人生は一つじゃあない、
少なくともこの指ぐらいの可能性はある、って。
初めは意味が分からなかったけど…
例えばね、親指は館山精一の息子としての僕、
人差し指は和ちゃんや悟兄ちゃんといる時の僕、
中指は野崎組の総務部長としての僕、薬指は税理士、
小指は絵に没頭して新しい世界を見ている僕…
微妙にキャラクターが違うのだよ。
この前、和ちゃんは5本では足りなくなったから10本にした、と言っていた。
受け取り方はそれぞれだけど、
そういう考え方もあるのか、と思えば人生が楽になる。
消してしまいたい過去はリセットだよ。
僕は父さんに引き取られるまでの人生はリセットした。
あんな事をいつまでも頭に残していたら自信が無くなり…
暗く悲しい心に支配されてしまう。
今は野崎のとびの子として前進あるのみだよ。」
広志は未来に向かって羽ばたいている鳶の子のイメージそのもの、
瞳を輝かせながら孝輔を見ている。
澄んだきれいな瞳だ。
野崎を居場所として輝いている。

