「そういう気持を与えてくれたのも和ちゃんたちだよ。
何度も言うけど、僕は岡崎に来た当時、登校して…
皆から、馬鹿、とか、チビの死に損ない、って言われ、
そう、まさにいじめられっ子だった。
いくらいじめられても、
やっと野崎の職人になれた父さんには言えないでしょ。」
「広志さんの事を馬鹿と言ったのですか。」
孝輔には信じられない言葉だった。
広志はおとなしく目立たなかったが、
中学から優等生の一人だった。
そんな広志を…
面と向かって孝輔に聞かれ、
広志は真面目な顔をして思い出すように苦笑している。
「僕は五年生の時に岡崎に来たのだけど、
それまでまともに勉強をしていなかったから、
勉強が全く分らなかった。
体が小さかった上にそんなだからいじめの対象になっていた。
その時和ちゃんは三年生。
僕がいじめられているのを知って、
いつも僕の教室を見張ってくれた。
そう、勉強なんか全く頭に無かったようだよ。
誰かが僕に悪さをするものなら、
五年生の教室なのに平気で入って来て、
大きな声でその子たちを威嚇して…
でも、和ちゃんも僕と同じで小さかったから、
初めは笑われたりしたけど、
いつの間にかに和ちゃんはその子たちをやっつけていた。」
そう話す広志は、懐かしそうな、嬉しそうな顔をしている。
広志にとって、初めて出来た兄弟のような友達だ。
年齢は広志のほうが上だが、和也のほうが守ってくれていた。
だからこそ、一・ニ年で人並みに、
いや、自分に自信が持てるようになった。
「勉強は悟兄ちゃんが教えてくれた。
でも悟兄ちゃんの言葉は難しかった。
すると一緒にいた和ちゃんが、
あの子供っぽい言い方で確認してくれて…
不思議なことに分ってしまった。
悟兄ちゃんは今でも時々、
和ちゃんは僕の天使だ、と言うけど、
僕こそそう思っている。」
広志はとても良い顔をして、
机の上に立てている三人で映った写真を見た。

