「ここに僕が描き込んだ、この夏の野崎組Tシャツのデッサンが描いてある。
孝輔、どれがいいと思う。
この夏に皆に渡すものだから、もうぼちぼち業者にデザインを知らさないと。」



そう言って、広志は中を見せた。


そこには… いろいろな体勢をした鳶が描かれ,
鳶のくわえている小枝に【nozaki】と言うアルファべットの小文字が、
続け字で格好よく書かれている。


そして鳶の目は、
どの鳶も鋭い眼光を放って獲物を狙っている。



「すごい、これ、全部広志さんが… 」



その素人離れしたタッチに心から感動した孝輔は、
それまでの重苦しい感情を忘れ、素直に感心している。


音楽が好きと言うことは、
アートな心が強い場合が多いものだ。


少なくとも孝輔は、その広志の作品に心を奪われた。



「そう。僕は絵を描くことが好きだから… 
本当は設計士になって、いろいろな家の設計をしたかったけど、
既に設計士は正信さんがいる。

だから今はこうして、野崎の皆が着る物をデザインするのが楽しい。
手ぬぐいやタオルを配る時もあるけど、
それだって名前の他に必ず僕は絵を入れる。

ほとんどが鳶、もしくは鳶を連想するようなもの。
おじさんやあきら兄ちゃん、それから山根のおじさんの名刺も
僕がデザインして作っているのだよ。

ここの屋上に上がってスケッチをすることもある。
描いている時は、ただそれだけに心を導入、集中出きるから… 
孝輔だってそうでしょ。

バイオリンを弾くのは誰のためでもない。
好きな事をしていれば自分の心が幸せになり、
そして他人をもいい気持にさせられる。

絵とか音楽はそう言うものだと思うよ。
スペシャリストにならなくても、
好きな事を続けられる環境に身を置けたら幸せだよ。」



そう話す広志は、その涼しげな瞳を幸せそうに輝かせ、


そう、自分は人生を満喫している、
と言っているように輝かせている。