幸い由樹の姿は見えない。



「じゃあ、次の学校探しだけど… 
孝ちゃんは何か希望がある。 
今までのような学校は県内ではあそこしか無いから無理だけど… 」


「広志さん、こんな僕が、今頃入れる学校などありますか。」



孝輔は絶望感の入り込んだ顔をして広志を見ている。


どんな顔をしてこんな時期に、
新しい学校へ通えばよいのだろう。


そんな気持もうかがわれる顔だ。


孝輔は、今は何も考えたくは無かった。



「どこでも良いならいくらでもあるよ。
退学にはなるけど、孝輔はあくまでも被害者だから… 」



広志は落ち着いた話し方をしている。



「でも… 」


「孝輔はもう学校へは行きたくないの。
それなら考えを変えないといけないけど… 
僕は、孝輔も高校を卒業して大学までは行って欲しいと思っているよ。
おじさんと同じだ。

大輔は昨日の話でも分ったと思うけど、
将来は野崎組を支える人になってくれる。

孝輔は… 今でも音楽、特にバイオリンが好きだと思うから、
そっちの勉強を続けたらどうかなあ、と思っている。
僕の独りよがりだった。」



広志は、孝輔が悩んでいる事は大輔からも聞いていたから分っているが、
敢えて孝輔の口から聞きだそうとした。


案の定、孝輔の顔が苦痛に変わっている。



「分かりません。先のことなど… 」



涙がこぼれそうになり孝輔は慌ててうつむいた。


自分がアキと付き合っていたことは、
多くの人に知られている事だろう。


馬鹿な高校生が一人前の顔をして
、悪意を持つ女に引っかかり退学処分。


こんな噂が流れたなら学校へなど行かれない。


勇気の無い僕には行きたくても行く事は出来ない。


周囲の興味の目にさらされて、
平気な顔をしている事など出来る筈が無い。


母のことであれほどの醜聞が溢れたと言うのに、今度は僕が… 
そう思うだけで絶望感が沸き上がって来る孝輔だ。