「ヘロインじゃあないのか。嫌な夢でも見たのか。」
返事も無くそのまま大輔の手を握っている孝輔に、
大輔は同じように座ったまま、
少しだけ動くギブスの手で顔や頭を撫で回している。
そうすることで孝輔が落ち着きを取り戻す、と双子の勘が囁いている。
長い事そうしていた。
その内に孝輔の表情が柔らかいものになり…
相変わらず大輔の手を握っているが、
いつの間にか眠っている。
食後に飲んだ薬の中に睡眠作用のあるものが入っていたのだろう。
「眠ったか。」
気が付けば父が廊下で立っている。
大輔が孝輔の声に驚き慌てて入ったから、
ドアは開けっ放しのままだった。
「父さんも気がついたの。」
「当たり前だ。あんな声を出したのだぞ。
余程あの事の後遺症が残っているようだな…
まあ、仕方が無い。その内には影を潜める。」
「後遺症… ヘロインの。」
「それしか無いだろう。
こいつにとってはどれだけ大きなショックだったか。
医者はこれぐらいで終わったのだから何も心配は無い、と言っていたが、
やはり何がしかの後遺症が出るのだろう。」
父はヘロインの後遺症が出たと思っているようだった。
しかし、今の大輔には孝輔の心の闇が何となく伝わっていた。
今まであれだけバイオリン一筋でやって来た孝輔に、何と助言するべきか。
良い、悪い、とか、好き、嫌い、強い、弱い、と言うように
はっきりした言葉は言えても、
柔らかくオブラートに包む話術、
機知的な言葉は苦手としている大輔には、
うまい慰め言葉が浮かんで来なかった。
あれほど涙を流して…
孝輔の気持が分るだけに辛い大輔だ。