野崎組にとっては、大輔のような元気なスポーツマンが一人いれば良いのだ。


音楽が好きなだけの僕なんか無用なのだ。


それも… ヘロインなんかに手を出した馬鹿な息子など、
誰も何も言わなくてもわかる。


体が金縛りにあったように動かせず、
痛みを覚えている孝輔は、
布団を力いっぱい握り絞めながら混乱と恐怖で慄いていた。


嫌だ、僕もこのまま野崎孝輔としてこの家で暮らしたい。


大人になっても大輔と一緒にこの家で父さんと暮らしたい。


僕だって父さんが大好きだ。


野崎組の仕事が出来なくても… 



「嫌だ。嫌だ。」



無意識に孝輔は叫んでいた。


声も出ないと思ったが… 



「孝輔、どうした。」



その声が聞こえたのか大輔が飛び込んで来た。


そして額に汗を浮かばせ、
掛け布団を握り絞めて泣いている孝輔を見て驚いた。



「孝輔、また苦しくなったのか。」



大輔は、孝輔がヘロインのせいで苦しんでいると思った。



「待っていろ、すぐに水の用意をしてくるから。」



大輔は広志に教えられていた事をしなくては、と、急いで台所へ行こうとした。



「大輔。」



まだ身体中に痛みを感じる孝輔だったが、
とっさに大輔の手を掴んだ。


そして、放さない、と言うように両手でしっかりと握り緊めている。


訳が分らないものの大輔は、
孝輔のベッドに座り、
ギブスをはめている手で孝輔の顔を優しく撫でた。