その蒼ざめた顔… 広志と大輔は、孝輔の気持に配慮したつもりで,
敢えてアキの名前などは言わなかったが…
孝輔がどんな気持でいるのかは、声をかけなくても分かる。
山田と別れて家に戻った三人。
そこまでは、まるで息をしていない人形のような孝輔が、
確かに2人の後を、自転車を引きながら歩いていた。
しかし、広志が大輔に肩を貸して家に入った隙に、
自転車を引いていたはずの孝輔の姿が見えない。
玄関先に大輔の鞄や剣道着,竹刀がきちんと置かれていた。
それを見た広志は慌てた。
注意していたつもりだったが…
大輔の怪我をどう家人に話そうか、と心がその方に偏っていた。
事務所を見れば、もう何人かは戻って来ている。
「大輔、孝輔の姿が見えない。多分あいつらの所だ。
僕は今からあきら兄ちゃんと行って見る。
いくら大輔でも今の孝輔がどこにいるかは分らないだろ。」
「うん、何か異変が起これば感じるけど… 俺も行くよ。」
「駄目だ。大輔はその肩を直す事に専念してくれ。
そうでなくては孝輔が救われない。
孝輔は自分のせいだ、と悔やみ、行くつもりではなかったのに行ったんだ。
ヤケにならなければ良いが… 」
そう言いながら広志は事務所へ行き、あきらを誘って車を出している。
「広志、俺が運転する。お前はこっちだ。」
運転席に乗ろうとした広志の肩に手をかけて、
あきらは,広志を助手席へと押し込んだ。
「だってこれは僕の車だし、あきら兄ちゃんは今まで働いていたから僕が… 」
「バカヤロウ。お前、パニくっているじゃあないか。
そんな事でどうする。こういうことは経験者の俺に任せろ。」
確かに広志はパニックに陥っていた。
元々、自分の感情を表すことはしないタイプだから、
大輔や他の誰かにも悟られる事はなかったが、
あきらの目は騙せない。

