「何しているの。早く来なさいよ。」
あんな事をしておきながら、アキはどう思っているのか。
孝輔がいつもの所に来ない事に腹を立てているような口調で、呼び出そうとしていた。
「僕にヘロインなど飲ませて… 何とも思わないのですか。
僕はもう会いません。電話もしないでください。」
アキの声を聞いただけで身体中が熱くなり、
まだ未練のような懐かしさと、怒りの入り混じった複雑な感情に襲われながら、
孝輔は自分を奮い立たせてそう言った。
隣では広志が、真剣な顔をして孝輔の耳元を凝視している。
「いいのかい。そんな事を言うと後悔するよ。楽しみにしてな。」
そう言って、甲高く笑うアキの耳障りな声を残して携帯は切れた。
孝輔は不安な気持に襲われたが…
自分を見つめている広志に電話の内容を話した。
「ふーん、何か意味ありげな言葉だね。
とにかく孝輔は当分一人にはならないことだ。
僕がその内に奴らのバックを探し出して、トップダウン式に話をする。
ああいう連中には上からの指示が一番だからね。」
広志の言葉に一応は落ち着けたが、
心のどこかには一抹の不安が隠れている孝輔だ。
多分アキは、孝輔の通学途中を待ち受けるつもりだろう。
口には出さなかったが、二人ともそんな事を考えていた。
が、今の孝輔では当分通学は出来ないから大丈夫だ。
二人は途中広志が住む野崎のアパートに寄った。
広志も、一見すれば何でもうまくこなす好青年だが、実際のところ、
今日のように長時間、誰かの世話をした経験は無かった。
悟や和也がいる頃は二人のリーダーシップの下、後を付いていただけだった。
おとなしかったから、気を使ってもらうほうだったのだ。
それが成り行きで、孝輔と一緒に居る事になり…
決して嫌と言うわけではないのだが、話題に窮乏している。
それでどうしても悟や和也との話になってしまう。

