安城のおばさんと言うのが朝子の末娘で、恵子と言う今年62歳になる父の叔母だ。


夫は消防士だったが定年になり、両親が残した農地を耕して農業を楽しむつもりだった。


が、やはり一人で黙々と仕事をするのは淋しいのか、日曜日になると、アルバイトと言うことで、野崎の見習い達に声を掛けて来る。


しかし、日曜日は見習い達にとって週に一度の休日。


孝太の指示で、今は由樹が平日に通っている。


足は悪いが、安城へ行く時の自転車ぐらいは大丈夫。


帰りには、野菜がたっぷり入った大きなダンボールを後ろに積んで戻って来る。


孝太は、広志の口添えで入った15歳の由樹が、一日中事務所で働くほどの仕事は無いだろうと考えていた。


そして広志も、由樹がずっと自分の側にいるより外の空気を吸う事も必要だ、と思っている。


そう、安城行きは双方にとって都合が良いのだ。


信也おじさんと言うのは朝子の長男で64歳。


日名に家を構えているが、いろいろな事情で今は単身赴任のように野崎のアパートで一人暮らしをしている。


一度定年退職をして今は二次就職をしているが、時々は野崎の営業を手伝っている。


野崎の営業とは、やはり広志の手伝いの事だ。


信也には妻の貴子と美里(35)、義信(32)、正信(30)と言う子供がいる。


その中の正信は設計士になり、一応は家のガレージの上に小さい事務所を作り独立している。


しかし、たいした仕事は無く、時々は野崎の手伝いと称して、野崎組が昔のよしみで頼まれた個人の家の設計の仕事を回している。


昔の野崎組はとび職から始まって建築一般をこなしていた。


それを覚えている人や家族から、とび職と看板を出していても話が来るのだ。


そして今の野崎組にも、それに応えられる職人がいる。




「孝輔、手伝ってくれるかい。それとも教科書でも見ておく。」