「昨日の今日で
そんなすぐ咲いたりしないか」



誰もいない裏庭の、
バラの前であたしは、

ちょっと残念な気になった。


反して、
バックミュージックは
陽気なサックス。





「こんにちは」



突然、

どこかから声が聞こえた。



たぶん、
あたしの視界の範囲内から。


声の主を探して見回すと、


あたしの視界をおおう
緑のバラの花壇の中から、


ひょっこり人が姿を現した。


「!!!」


「…すみません。
驚かせちゃったね」


ヒオカ先生。


いたの。



Tシャツと
ジャージのズボン姿。

手は軍手。


今日は、いかにも
園芸スタイルって感じだ。



あとは首にタオルでも
巻いてたら完璧なのに。

あ、あと麦わら帽子もね(笑)




ヒオカ先生は、しゃがんで
バラの手入れをしながら、

あたしに話しかけた。



「…佐野さん、進路は?進学?」



名字?!

今日は名字で呼んだ。


いきなり、
だけど“先生”なら
よく聞いてくる質問。



あたしは、
うなずきながら「進学」
って答えた。



「三年生を担当してる先生から、
佐野さんは優秀な生徒だ
ってよく聞くよ。

どこ志望?」



「…東京。
国公立で行けるところなら
どこでも…」



「…東京?何でまた…」


ヒオカ先生は、
驚いた顔から、
考える顔になった。


それから

言葉を選ぶように
遠慮がちに聞いてきた。



「…よけいなこと
かもしれないけど、
…お母さんと上手くやってる?」