「俺のことを好きになれとも、俺と付き合えとも、言うつもりはない。ただ、…叶夜って呼べ」




彼が見せるいつもとは真逆な落ち着きの声と表情にほんの少し違和感を覚える。


あたしは流されるがままに、深く頷いた。


そうすることしかできなかった。




―――――ただ、名前で呼ぶだけ。


なぜ彼がそこまで”そんなこと”にこだわるのか。




たまたまつけられただけの固有名詞を呼ぶだけじゃない。


それだけの行為だと、”今までは”、そう思っていた。




だけど今のあたしには、ほんの少しわかるような気がした。


彼は怯えられているあたしに変なテンションで話しかけてきて、許可なしに名前で呼んできた。


そんな人は、初めてだった。