「…ア、アルテミア」

歩き出したアルテミアに、話しかけようとした時、突然…足を止めた。

「どうした?」

アルテミアは、空を見上げた。

「アルテミア様」

真っ暗の空間に、サラの声が響いた。

「空間移転の術式は、破壊しましたが…おかしな波動が、アルテミア様の頭上に」

「そうらしいな」

アルテミアは空を見上げ、そこに浮かぶものに目を細めた。

先程、光を発して太陽のようになっていた何万人の魂の塊が、浮かんでいた。

光ではなく…闇を放ちながら。

「どうやら…この世界を包んでいるのは、人間の闇か」

アルテミアの背中から、翼が生えた。

「絶望が放っているのは、かつての願望。人の夢で、世界を形成する」

「アルテミア様!」

サラの声に、焦りがあった。
「わかっている!」

アルテミアは飛び上がると、魂の塊に手を伸ばした。


その次の瞬間、アルテミアの視界が真っ暗になり…床に着地した。

「おかえりなさいませ」

「!?」

着地したアルテミアは、顔を上げた。

「ここは!?」

断崖絶壁に囲まれた谷の底。

風に数百年削られた剥き出しの岩肌に、アルテミアは見覚えがあった。

「おかえりなさいませ。天空の女神…いや、今はこういうべきかな?魔王と」

谷底に、数百人の兵士がアルテミアを囲むように転回していた。

その輪の中から、黒いコートを身に纏ったヤーンが一歩前に出てきた。

ヤーンは、お辞儀をすると、アルテミアを見つめ、

「向こうの世界の人間の魂を使い、クーデターを起こすという計画は、あなたによって阻止されたようですが…代案が決まりましたので、気にしていません」

ヤーンは、顔を上げた。

「てめえ〜。何が言いたい」

アルテミアは、自分を囲む兵士を見た。

(防衛軍?)

俺も、周りを見た。

「なぜならば、それ以上の戦力を我々は手に入れたからですよ」

ヤーンは、指を上に向けた。

「紹介しましょう!防衛軍、最強戦力!」

「な!」

空から谷底まで、一瞬で降りてきた人物を見た時…俺とアルテミアは、絶句した。

「赤の将軍!赤星浩一!」

なぜならば…俺だったからだ。