「…そうか」

幾多は無言で頷くと、藤崎に手を伸ばした。

「だ、旦那!」

その意味を理解した藤崎は、慌ててコートの中からデザートイーグルを取り出した。

そして、幾多に銃口を自分に向けて、渡した。

「ありがとう」

幾多は、ずしりと重いデザートイーグルの感覚を確かめた後、銃口を藤崎の頭に向けた。

「え」

藤崎の顔が驚きの表情をつくる前に、頭はふっ飛んだ。

銃弾の勢いで、よろけながら…首なしの体が道に倒れた。

「…」

幾多は、デザートイーグルの銃弾を確認すると、自らの学生服の内ポケットに、強引にねじ込んだ。

静かな山道で響いた銃声に、顔をしかめていた女の表情が凍りついた。

にこっと、幾多が笑いかけた瞬間、女は慌てて逃げ出した。

「フッ」

幾多はそのまま…女とは、反対方向に歩き出した。

振り向く時、ちらっと藤崎の遺体を見た。

「お前は…人間を食材として見ていた。あくまでもね。しかし…さっきは、明らかに…人間として嫌悪した」

幾多はズボンに、両手を突っ込むと、山の上を見た。

向こうから、一台のヘリコプターが飛び去っていくのが見えた。

その中には、真田達がいた。

幾多は足を止め、しばらくヘリコプターを見送った後、再び歩き出した。

あくまでもゆっくりと。





その頃、闇の屋敷にいた菱山五郎は、笑っていた。

「かつて…1人の男がいた。その男は、異世界に落とされたが、どんな手を使ってでも元の世界に戻ろうとした」

その男の名は、兜又三郎。

「彼が、開発した術式は…今、我の手にある」

菱山は、闇の中で手を伸ばした。

「戻ることができるならば、逆もできる!ククク…ハハハ!」

抑えていた感情が爆発した。


その笑い声を聞きながら、廊下を…赤星光一が歩いていた。

能面のように無表情で…。