そんな2人の会話を耳にしながら、俺は渡り廊下から東館へと入った。

そこには、先に入ったサーシャが腕を組んで窓ガラスにもたれていた。

「話さないのか?」

サーシャの言葉に、俺は逆に訊いた。

「サーシャさんこそ、話さないじゃないですか」

俺の問いに、サーシャは鼻で笑うと、

「あたしらとあいつらは、別行動を取っている。この世界は、あいつらの方が詳しいし、あたし達は敵の目を引き付ける」

「成る程」

俺は納得すると、先程のサーシャの質問に答える代わりに、まじまじとサーシャを見つめ、

「似合ってますよ。制服姿。かわいいです」

ほめて上げた。

「な!」

突然のことに、サーシャは顔を真っ赤にして、絶句した。

ブルーワールドでブラックサイレンスの1人として戦い続けてきたサーシャは、あまりかわいいと言われたことがない。

「な、な、な」

サーシャが少しパニックっている間に、俺はその場から離れた。

すぐに思考は、光一のことに戻った。

(敢えて…魔力を放出していたな。俺の波動に似ているが、異なる。やはり、あいつが…抗体)

普段の力が使えれば、容易に倒すことができるだろう。

しかし、魔力を使えない…今の俺では、やつに勝てないとわかっていた。

(まだレダとも接触していないのに)

問題が山積みだった。

ここ数年は、強大な魔力を身に付けていた為に、殆どの問題をクリアできていた。

しかし、再び…ただの人間に近くなると、不便であった。

(改めて思う。人間は、大変だとな)

それでも、まだましなのは…チェンジ・ザ・ハートとモード・チェンジが使えることだった。

(しかし…どうする?)

考え悩んでいると、俺の進路に誰かが立っていた。

「太陽様!」

その声に、俺は足を止め、絶句した。

「開八神茉莉…」

目の前で微笑んでいるのは、綾瀬太陽の姿をした茉莉だった。

「いやですわ〜!太陽様!茉莉とだけ呼んで下さいませ」

少し口を尖らせた茉莉に、俺は何も言えなくなった。

「太陽様!」

信じられないことに、俺が本物の茉莉と会うのは、これが初めてであった。