(この感覚は?)

九鬼が出てきた廊下の角に、身を隠して、様子を伺っている少女がいた。

開八神茉莉である。

しかし、その中身は…茉莉と入れ換わった綾瀬太陽だった。

(ブルーワールドの匂いにひかれて、やって来たけど…)

太陽には、九鬼の背中に見覚えがあった。

(生徒会長とはねえ)

腕長の男を撃退したのを確認すると、太陽は異空間から戻っていく廊下に背を向けた。

(ということは、彼女も世界を越えたのか。しかし、どうやって…)

太陽が悩みながら、歩いていると、いつのまにか一階の渡り廊下に出た。

右に曲がれば、グラウンドに出る。

「うん?」

ふっと視線を感じて、太陽は足を止めると、右斜め前を見た。

中央館の壁にもたれて、こちらを見る女子生徒がいた。

まだ少し…学生服が似合っていないように見える生徒に、太陽は息を飲んだ。

(!?)

女子生徒は微笑むと、ゆっくりと太陽に向かって歩き出した。

太陽は金縛りにあったように、動けない。

そんな太陽の真横で立ち止まると、女子生徒は囁くように言った。

「浮気者」

「!!」

予想外の言葉に、太陽の体が軽く跳ね上がった。

女子生徒はそんな太陽の反応に、微笑むと西館の方に歩き出した。

「ち、違う!フ」

振り返り、女子生徒の名前を言いかけて…太陽は息を飲んだ。

先程自分が出てきた出入口から、サーシャが姿を見せたからだ。

太陽は慌てて、背を向けた。



「どうした?フレア」

あまり感情を表に出さないフレアが、楽しそうに笑っているのを見て、サーシャは眉を寄せた。

「何でもない」

首を横に振ると、フレアはサーシャの横を通り過ぎた。

「?」

サーシャは、中庭で身を強張らせながら、背中を向けている太陽を見た。

(普通の生徒か)

気を探ってみたが、魔力は感じなかったので、サーシャは西館に入ったフレアの後を追った。