「愛?」
気付いたら、日はすっかり落ちていた。
駅前のベンチに腰掛け、ぼんやりしていた。
「愛!」
「…………お兄ちゃん。」
「お前、何やってんだ?携帯出ろよ。お袋心配してっぞ?」
帰りの遅い私を探しに来たらしい兄。
「濂、来てるぞ?良いのか?逢わなくても?」
「ふぅん。帰ってんだ。」
「…………付録つきだけどな。」
「逢ったの?」
「お袋が騒いでたよ。モデルだってよ。」
私の隣に座り、携帯をいじり始めた。
「俺、飲みに行くから。ちゃんと帰れよ?」
探しに来たんじゃないの?
「なぁ、愛?」
「ん?」
「あんまり気にしなくても良いんじゃね?」
小さな子供にするみたいに私の頭を撫でた。
「ちゃんと帰れよ?じゃねぇと俺が悪いみたいになるんだからな?」
頷くのを確認すると、もう一度、頭を撫でて立ち上がった。
「じゃあな。」
手を軽く挙げ、駅の中に消えていった。
三つ違いの兄。
濂ちゃんの二つ上。
濂ちゃんは、この男の言うことは絶対服従する。
それは多分、今でも。
でも、私のことは………。
帰んなきゃね。
よいしょ……
心の中で勢いをつけて立ち上がる。
鞄から携帯を取り出した。
母さんからの着信がいっぱい。
高校三年の秋。
部活もなくなり、受験へ向けて皆必死。
ぎりぎりの成績で無理して入った私は、とっくに置いてきぼり。
進学も出来るんだか……。
悩んでた時。
相談したい濂ちゃんがいない。
そんな私に兄がかけてくれた言葉。
それが私の支えになった。

