光輪学院シリーズ・神無月の憂鬱

対して神無月の顔は険しくなる。

「依琉の場合、わざとおかしくしているような気がするんだけど?」

「否定はできないけど、逃れられないって言うのもあるよ」

二人は短い間、視線で火花を散らした。

それが解かれたのは、祖母が部屋に入ってきたから。

「お嬢、それに依琉さん。生徒さん達が帰ったから、本低に移りましょう」

「えっ!? あっ、お婆、ゴメン!」

壁にかけてある時計を見上げれば、すでに10時半。

習字教室が終わる時間になっていた。

「いいのよ。…さっきのお客さんのこともあるしね」

声をひそめて言ったが、すぐに笑顔を浮かべる。

「これからあんみつを作るの。依琉さん、良かった食べてかない?」

「わあ! 嬉しいです。あんみつ大好きなので♪」

そこでふと、依琉がかなりの甘党であることを、神無月は思い出した。

「ふふっ、良かったわ。それじゃあご馳走するわね」

「はい! 喜んで」

笑顔で出て行く二人を見ながら、神無月はため息をついた。

<視>る力こそ無いものの、神道系に身を置いているせいか、多少人間のことがよく分かる。

例えば病気になっているかどうか―。

それで妻の姿を見て、一目で病気にはなっていないことを感じ取った。

それは祖母も一緒で…でもだからと言って、余計なことはしないし言い出さない。

<言霊>使いとして、言葉の重みをよく知っているからだ。

だから来客の注文通りに動いた。―どのような結果になろうとも。

「はぁ~」

二度目のため息を吐きながら、神無月は外に出た。

青空に浮かぶ太陽を見ながら、あの二人の行く道を思い、三度目のため息をついた。