物音なんて一切聞こえなくて、さっきと同様、保健室は嫌になるくらい静まり返っている。


不思議に思って、閉じていた瞼をゆっくりと開く。


目の前にいた人物に言葉を失いそうになる。


爽やかな柑橘系の香水の香りがした。


そう、そこにいたのは紛れもなく水沢日向クンで。


水沢日向クンはさっきとは違う爽やかな笑顔で涼しげに笑うと、あたしの髪を優しく触った。


「またね、穂香ちゃん?」


そう言って、あたしの髪にキスを落とすと、水沢日向クンは保健室を後にした。


……そして、今に至る。


「はぁああああ……」


オレンジジュースを片手に、深いため息をつく。


あれから、楓は少し不機嫌で、なんとなく気まずいし……。


水沢日向クンのことも、愛チャンのことも、なんか去年より恋のハードルが上がってるよね……。


「ちょっと! 穂香! やめてよね、旅行に来てまでため息なんて!」


愛チャンは、可愛らしいトランクをゴロゴロと押しながら、沖縄観光パンフレットであたしの頭を軽く叩いた。