楓がパイプ椅子から、ガタンと音をたてて立ち上がる。


険悪な雰囲気の中で、沈黙が続いた。


不敵な笑みを浮かべる水沢日向クンを、睨む楓。


どうしていいか分からず呆然と立ち尽くしているあたし。


「無理だな」


そんな沈黙を破ったのは楓だった。


真っ直ぐに水沢日向クンを見つめるその瞳は、揺らぐことはない。


そんな楓に少し、胸が疼いた。


「……無理って、なんでアンタにそんなこと言われなきゃいけないの?」


「無理だから無理って言ってるんだけだけど?」


水沢日向クンはチッと舌打ちをすると、楓に一歩一歩と近づいて行く。


だけど、楓は動揺の素振りも見せず、ポケットに手を入れてクールフェイスを崩さない。


ど、どうしよう……っ!


このままじゃケンカになっちゃうよっ!


限界まで楓の前に来たとき、あたしは不意に怖くなってギュッと目を瞑った。


…………あれ?


なにも起きて、ない?