腕時計を覗きながら、体育館へと足を早める。


コンテスト開催まであと15分をきった。


アピールすることも何一つ考えていない。


柚月サンに勝てる自信なんて、これっぽっちもない。


どうしたらいいのかわからないけど、とにかく今は後先を考えてる余裕なんてなかった。


とにかく、体育館に行かなくちゃ。


そこに楓はいる。


直接会って、きちんと謝りたいんだ。



ーーその時、目の前に人影が見えた。


生徒会委員の後ろを歩く、タキシードを身に纏った彼。


そういえば、王子様に選ばれた生徒はタキシードを着るって愛チャンが言ってたっけ……。


長身の彼にはとても似合っている。


毎日顔を見てるはずなのに、こうして会うのはすごく久しぶりのような気がして、一気に熱い感情が込み上げてきた。



「……楓」


すれ違い様に、お互い足を止める。


言いたいことはたくさんあるのに、うまく言葉が出ない。



「あのっ、あたし……」


とにかく何か言おうとして発したその言葉は、楓によって遮られた。


あたしの唇に人差し指をあてて優しく微笑む。


ズキン、と胸が甘く疼いた。


「……言ったろ?俺を信じろって」


楓の一歩前で、不思議そうにあたしたちを見つめる生徒会委員に聞こえないように、楓はあたしの耳元で囁く。


見慣れないタキシード姿の楓は、あたしの胸をドキドキさせるのに十分過ぎるものだった。