「……なぁ、穂香」


爽が空になったコップを弄びながら、あたしに尋ねる。


「ん? なに?」


爽が言うのを躊躇してるかのように口ごもった。


その複雑そうな表情を見て不思議に思ったけど、深く考えずにアイスココアを飲みながら次の言葉を待った。


「……柚月と、なんかあったか?」


「えっ……?」


“柚月”という名前に思わず反応してしまう。


何も言えなかった。

特に特別な理由はない。だけど……


柚月サンは爽の幼なじみ。


そして……楓の幼なじみ、だから……。


なんとなく言うのに躊躇った。


「柚月が言ってたんだ。文化祭のコンテストで穂香と戦う……って」


やっぱり爽も聞いてたんだ……。


「……楓を賭けてるらしいな?」


いつの間にかふたりだけになった空間に、爽の声だけが響く。