前にも体験したような、雨雲のようにモヤモヤとした思い。
「穂香……」
楓があたしの名前を呼んで、なにか言おうとしたけれど、その言葉はまたもや甲高い声によって遮られた。
「……楓ーっ!」
だけど今度は、あーちゃんでも愛チャンでもない聞き覚えのない声。
不思議に思って、声のした方に視線を向ける。
手を降りながら、走ってくる女の子。
「……あ、蓁宮」
その女の子を見て、楓はボソッと呟いた。
「えっ? 楓、知り合いなの……?」
恐る恐る楓にたずねる。
あたしが聞くと、楓は何も言わずに小さく頷いた。
嘘……?
楓の知り合い……?
戸惑いながらも、荒い息を吐きながら走ってくる女の子を見つめる。
「やっぱり来てくれたのですね」
あたし達の近くまで来ると、女の子はあたし達なんかお構いなしで楓に愛らしく微笑んだ。
腰の辺りまである、指通りのよさそうな黒髪。
細くて、白い手足。
クリクリした大きい瞳。
雰囲気は愛チャンとよく似てるけど、どこか違う。


