いつもの癖で、口の中を思い切り噛んだ。

束の間の痛みが、現実の辛さを打ち消す。
それも、ほんの一瞬だけど……。
 


でも私は、前とは違う。
その後、気に病んで心がボロボロになったりはしない。



私には、“天国への階段”がある。
辛さが積み重なればなるほど、天国へ近づく。
ようやく、この辛さから解放されるのだ。



「そうそう、斉藤さーん」
 


麗子が私を呼んだが、無視した。
麗子なんかに気易く名前を呼ばれたくないと、心の中で舌打ちした。



そして、返事の代わりに、もう一度口の中を噛む。


じわじわと血の味が広がっていく。