女子トイレには、誰もいなかった。
チッと、心の中で軽く舌打ちをし、顔を歪ませた。
もし誰かがいたなら、どこに私がいるのか、少し悩むだろうから。
もしかしたら、何かをされずに済んだかもしれないから……。
一番手前の個室に入る。
この、一枚のドアの恐怖をわかるだろうか。
意外と高いこの個室のドア。
その向こうには、恐ろしいあいつらがいて、逃げ場のないここに、何かをしてくる……。
このドアの上から、何をされるかわからない。
しかも、逃げ場がない。
これは、いつまでも慣れることのない恐ろしさだ。
こういう恐ろしさに慣れてしまう時は、あたしの終わりだろうと、海結は思った。
人間の“恐怖”という感情が無くなった、自分の最期。

