渓斗はもう一度笑い、俺の部屋から出て行った。
渓斗のあの表情が頭の中を駆け巡る。
どうしてあんなことを言ったのだろう。
“これから先、ずっと…好きな人はできない”
俺は頼りないから話しても無駄だと思ってるのかな。
そうだったからかなりのダメージだ。
ベッドに沈んだゲーム機を手に取る。
まだ画面はGAMEOVER。そのまま電源を切り、ベッドに横たわると玄関から音が聞こえてきた。
たぶん母さんだ。
それしかない。
足音が俺の部屋に近づいてくる。
きっと「手洗いうがいはした?」って聞かれるんだろうな。
毎日聞かれるから。
でも今日は違った。
足音がいつもより大きい。
慌てるように俺の部屋に入ってきたのは、やはり母さんだった。
「俊介、渓ちゃん今までここにいた?」
母さんの顔が何かに怯えてるように見えた。
「え、うん。さっき帰ったよ。」
「そう、じゃあいいのよ」
こんな母さんの表情を見たのは初めてだった。


