小さい頃からずっと一緒にいたのに、なぜ心に住み着いた闇に気づけなかったのかな。
でも大丈夫。
俺は、お前から離れない。
「さんきゅ、渓斗。渓斗は好きな人とかいないの?そういえばそういう話聞かないよな」
俺がこう聞くと渓斗は写真立てを元あった場所に返した。
そして静かな口調でこう返す。
「いないよ。たぶんこれから先ずっと出来ないんじゃないかな」
渓斗は時々理解しにくいことを言う。
その言葉の意味を知るにはこの時の俺の脳みそでは足りなかった。
まだ子供だったから。
「何言ってんだよ。この先ずっととかあり得ないから!渓斗ならすぐ出来るよ」
何を根拠にこんなことを言えたのだろう。
でも何も考えていなかった俺から素直に飛び出た言葉だった。
渓斗は小さく笑い、床に置いたネイビーのランドセルを取る。
「そろそろ帰る。もう母さん帰ってくる時間だし。じゃあ10時にな」
「楽しみにしてるから!」


