修平は椅子に座り、デスクの一番下の引き出しからあるファイルを取り出す。
それは生徒の個人情報の塊だった。
「…翔太の住所は…えっと」
近くにあったメモ用紙に慣れた手つきで住所を書いていく。
大きく骨の出た細い手がなんだか羨ましく思えた。
俺が女の子だったらこういう手に憧れるんじゃないかって。
「はい、これが翔太の住所」
そう言ってメモ用紙を俺に差し出す。
俺はそれを受け取り、ある質問をした。
「先生は満里奈のどこを好きになったの?」
さすがに大声では言えないから小声で。
すると修平は俺から視線をずらし、ファイルを引き出しの中にしまう。
…答えたくないかな。
プライベートだから?
別に今更いいじゃないか。
「アイツは、ウサギみたいに可愛いから。寂しくて死なないように俺がいんの」
「…修平、ウサギは寂しいと死んじゃう話、あれデマだよ。まだ信じてたの?」
「違うのか?」
違うよ、修平。
寂しいと死んでしまうのはウサギではなく人間のほうだよ。


