今行ったらきっと翔太は傷ついてしまう。
それだけは…。




「いや…今は入らない方がいい…」




「えっ何で?でもバイト始まるから…」




どうしよう、どうしたら?
このままじゃ翔太が可哀想だ。まさか店の中に満里奈がいるなんて翔太は思っていない。
一緒にいる相手が修平だと思ったら…傷つくのは翔太だ。




だけど、残酷すぎる運命は幸せに塗り替えてはくれなかった。


翔太の腕を掴み、必死で訴えていた時、ゆっくりと店のドアが開いた。
その光景が妙にスローモーションで。
誰かがスローボタンを押したかのようだった。



そして砕け堕ちる。




「え…俊ちゃんに…瑠花ちゃんに…翔ちゃん?」




店から出てきたのは満里奈と修平だった。
二人共俺たちを見てかなり驚いている。
俺はやりきれない思いでいっぱいだった。

ちらりと翔太を見ると目を丸くして体から力が抜けてしまったよう。



「ジョー?それと翔太…お前たち…」




店から出たら担任に戻るのかよ。
さっきまで楽しそうに喋ってたじゃないか。
そんな姿は教え子には見せないって?

そんな修平に腹が立った。



「………翔太」




俺が小さく名前を呼ぶと翔太は俺の方に顔を向けた。
俺は見逃さなかった。
翔太の瞳が涙でいっぱいだったのを。




「…俊介くんの協力って…このこと…なの?」




翔太はそれだけ残し、その場を駆け出した。



翔太の言葉がぐるぐると頭の中で何回もリピートされる。




翔太…ごめんな…
俺がもう少し頭が良かったら…お前の涙を見なかったのに…




どうしてこんなにも俺たちは不器用だったのだろう。



美しい花には誰も知らない棘がひとつ。
それが今日、開花された。