「ありがとう」 また私の口から声が漏れ出し、私の唇が微かに笑みを浮かべる。 それを見て父は苦しそうに表情を曇らせると、静かに俯いた。 そして次の瞬間、父は母の手を取るとそれを引き寄せ……そっと唇を重ねた。 ……これはきっと……最初で最後の口付け。 だって……二人の唇が震えている。 それはほんの一瞬の事で、父はすぐに離れると、そのまま身を翻し走り出した。